「蒸気機関車」

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50代 ●会社役員(53) 

今の時代、旅は本当に快適なものになっている。
昔もくもくと黒煙を吐き出して走っていた蒸気機関車のことなど、思い出すこともない。
僅かにSLと言われて保存のため、観光のために残っているぐらいである。

でも我々はあの蒸気機関車に乗って旅行していたのである。
トンネルに入ると煙が客車内に入り込んできた。
いつの間にか服やら何やら、鼻の穴まで真っ黒になってしまっていた。
今の若い子たちには想像出来ないであろう。

でもあの時代、旅の思い出に欠かせないものがあった。
駅に停まると駅弁売りの声が聞こえて来たものである。
窓を開けて、駅弁売りのおじさんを呼んだ。
汽車が発車するまでの僅かな時間に弁当を買い込み、その地方独特の名物弁当を食べたものである。
弁当以外では、掛け蕎麦売りのおじさんもいた。
あの掛け蕎麦は本当に美味しかった。
今よりも旅の楽しさを演出する仕掛けがあの頃はあった。

ただ通り過ぎるだけの旅行とは違う何かがあった。