「第九」

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侍 ●会社員 (51) 

学園紛争が終わった年の暮れに、はじめて市民公会堂に第九を聞きに行った。

クラシックコンサートなどはじめての事だった。
それまでは流行のフォークにはまり、下宿には当時三種の神器の一つだったギターが転がっていた。

シンガーソングライター気取りで、曲を作った。
少なかったけど、発表の場があれば出かけて行った。
若い時は恥ずかしさなんて感じないのかも知れない。
カセットテープに録音した当時の歌声が残っているが正直のところひどいものである。

その流れで、就職した年に先輩の結婚披露宴でその先輩から頼まれて、フォークを披露した。
当然愛用のギターを奏でながら。

そんな自分が何を思ったか、一人で第九を聞きに行った。
思いのほか感動したのを覚えている。
帰りには夜の国道を自転車で思いっきり駆けていた。
何と叫んだかは覚えていないが、大きく奇声を発しながら。
その感動に後押しされるように。
お陰で、自転車の照明器が焼けて、使用不能になっていた。