「一人旅」

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裕次郎 ●会社員 (55)

学生の頃だったと思う。
私は日本海に沿って走る列車の中にあった。
列車の窓のむこうには冬の日本海のすがたがあった。
激しく打ち付けてくる波、波、波。
冬の日本海は荒々しかった。
そんな男らしい表情を見せる日本海のすがたに目をやりながら私は何を考えていたんだろうか。
あの当時だれに便りを書いたのだろうか。
持って来ていた葉書を取り出して確かに誰かに便りを書いていたのだった。
傷心旅行とでも言っていいのだろうが男の私にはあまり似合わないのだけは確かだった。
そしてその葉書をどこで投函したのかも今でははっきりとはしない。
ただその時窓の外のただ一面の灰色の世界、荒れ狂う冬の日本海のすがただけはいまだに私の脳裏から消え去ることのないことだけは確かである。
携帯電話のなかった時代、声だけでも聞きたいとの切ない気持ちがただ想いを膨らませていったことも事実である。