「 大学祭の夜」

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sato(男)  ●会社員(45)

「取られちゃった!」
彼女の叫び声に驚きながら僕は振り返った。
さっき模擬店で買った綿菓子の、それも箸だけになったそれを僕の目の前にかざしながら彼女はすこし悔しそうな表情で僕に訴えていた。
「さっきの男の人がわたしの綿菓子取って行ったの!」
それと事態が分かった時にはもうその犯人は人ごみのなかに消えていた。
彼女の姿がすこしだけ滑稽だったこともあって、ほんのすこし僕は黙って彼女を見つめていた。
「ひどい事をする奴がいるもんだ。BUT でも幸い僕のは被害にあっていないから。
僕のをあげるから機嫌を直すんだ。」
そう言いながら人ごみから抜け出すため大学会館横から学部に続く通路へ僕は彼女を誘っていた。
しばらく黙って歩いていくと会館の賑わいも薄れ、夜の闇に隠れていた木立のところまでたどり着いた。
「こっちを向いてごらん。」
ちいさく彼女に声をかけた。
「どうしたの?」
彼女も僕にあわせてちいさな声で返してきた。
「この木立のなかはもう何組かの先客が来てるだろう。だからお邪魔になってはいけないの。」
周りの人の気配を理解した彼女は、
「本当、そうだね。」
あとは夜の闇と木立が二人の姿を優しく包んで行ったのだった。