「可愛い娘」

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sato(男)  ●会社員(44)

可愛い娘だね。
おふくろはそう言いながらその娘のほうに目を遣った。
ちょうどおふくろと弟、私の三人で郷里に帰る列車のなかでのことだった。
向かい合わせの四人掛けの座席で、進行方向に向かって窓際に彼女は一人で座っていた。
彼女の制服姿から高校生であることはすぐに分かった。
私たちは彼女を囲むように残りの座席に腰掛けた。
弟も私も大学生の夏のことだった。
毎年の行事のように私たちは三人で郷里に向かっていたのだった。
私は彼女の横に座っていた。
しばらくしてのことだった。
その娘は私の肩にもたれ掛かるようにして居眠りを始めたのだった。
清潔感あふれる彼女のその匂いを感じながら私はその幸運を壊そうとはしなかった。
そんな時、おふくろが愛しいような目で彼女を見遣りながら言った言葉だった。
可愛い娘だね。
そしてしばらく静かな時間が流れて行った。