ちゅみ ●会社員(43)
いま私は昼間から自宅でテレビを見ながらネットをしている。
一週間ほど前に派遣契約が終了して、次の仕事を待っているのだ。
派遣元によると、もうすぐ新しい派遣先を紹介できるので連絡を待っていてほしいとのこと。
実は去年まで私は正社員として働いていた。
だが社長との折り合いが悪く、一所懸命報いようと努めたが評価されることもなくわずか2年で退職した。
厳しい不況の折、これといった資格もない自分だからこそ、採用してくれた会社に恩義も感じ、他の社員が働きやすいように精一杯努力したつもりだったから、社長に認められず日々のストレスでこのままでは壊れるというところに至って辞めていくことに自信喪失した。
私って、無能なのか…?
長い間ためらっていた派遣登録をしてみた。
パソコンは使えるが実務経験がない。
どこも登録は受け付けてくれるが一向に連絡がない。
求人側は一様にワード、エクセルができなければという。
職安で講習を受けてみたところこれなら教わりながらだったら出来るんではないかと思う。
しかし声はかからない。
そんな時、最後に登録した派遣会社から連絡があった。
「ああ、実務経験なくてもいいですよ。行ってから教わればいいんです。どうせどんな職場だって入りたてはそこのやり方を教わるんだから」
そう言ってくれたのはそこが初めてだった。
どきどきしながら行った派遣先では、おじいちゃんと言ってもいい年齢の人たちもみんなパソコンを使っている。
わからないことは若手社員に聞きながら。
そうか、だからパソコンスキルに対して鷹揚なんだ。
できる人はパソコンに対して身構えてないんだと思った。
教わりながら仕事をしていたら、意外にも「仕事が早くて正確」という評価を得た。
前の会社で自信喪失していたのに。
社内でも親切に接してもらって萎縮していた気持ちが解放されていくのを感じた。
プロジェクトが終了して辞めて行く時は本当に別れがたかった。
今、私は胸を張って「実務経験あります」と言って自分を売り込もうと思っているが、去年までの苦しみはなんだったんだろう、耐えなくてよい苦労にわざわざ自分を追い込んだのも、不況、就職難というものへの過剰な恐れや、決め付けだったのだろうかと思う。