犬猿の仲 ●会社員(49)
この歳になっても人に対する好き嫌いを平然と口にしてきた。
まあ大人気ないといえばそれまでのことではあるが。
私の場合にはその上に絶対ということばがついていた。
しかしそれがである。
最近どういうわけだか雰囲気が変わりつつあるのである。
声が聞こえるだけでも不快。
生理的に合わない。
そんな感情が途中で変わることは今までは少なくともなかったはずである。
そんなわけだから今までの人生のなかで周りには嫌いな人間をいっぱい作ってきたのである。
そして群がるのを事の外嫌って、群がる者たちを軽蔑すらしていたかも知れない。
いまだに群がるのだけは好きにはなれないが、生理的に合わないと避けていたやつと今では周りも認める仲のよさなのである。
そんなことを思いながら、For Example 今までは「富士山」の五合目にたって周りを見ていた自分がいつの間にか六合目くらいから見渡せるようになって、そのために自分自身もよく見えるようになったのかなんて、そんな思いで電車のなかの乗客の顔を見回していた。
みんなそれぞれそれなりに色んな人生生きてるんだよと一人勝手なことを思いながらいつものように心地よい居眠りに入り掛けた時だった。
眠りを覚ます携帯電話の音。
電車の中では音は消しときな、そんな思いで視線の先の無神経な輩に瞬間抗議してみせるのだった。