maeda ●会社員 (48)
従兄弟の兄貴が嫁さんと二人で歌っていた光景を思い出す。
弟の結婚披露宴でのことであった。
「男なんてさ・・・」「女なんてさ・・・」その歌の合い間に私は、大きな声で「兄貴!」と合いの手を入れた。
それも何度も何度も。
弟の披露宴ということで私はこみ上げるものを感じながら、喜びを全身で表現していた。
たった二人の男兄弟である。
中学生のころまでは本当によく喧嘩をしたものである。
大学に進んで彼は左翼の活動家、自分は体育会系。
いろんな面でいつも対立していた兄弟が唯一一つになれたのはその兄貴を挟んでいた時だった。
自分達が中学生のころ、兄貴は東京の大学に通っていた。
かっこよかった。
二人の憧れだった。
そして二人をかわいがってくれた。
でもそんな兄貴の姿を見るのはその披露宴が最後となった。
50の年に兄貴は帰らぬ人となったのだった。
もう少し元気でいてくれていれば、酒を飲みながら少しはまともな話も出来たかも知れない。
あの曲を聞くこともなくなったが、もうすぐ自分もあのころの兄貴の歳になる。
でも兄貴のあの雰囲気に到達するにはまだ随分と時間がかかりそうである。