しがない旅人 ●無職 (49)
冬の日本海を見たことはありますか?
汽車の窓の向うに広がった灰色の世界。
強風に後押しされるように白い波が岩肌を砕くがごとく打ち寄せては裂けていくのです。
一人旅の私のこころはその無色の世界に引き込まれていました。
こころのなかのすべてがその白い波に浚われて行くような気持ちになりました。
こころのなかに辛うじて残っていたのは出発の時、見送ってくれたあの子のことだけでした。
他のものはすべて灰色の世界のなかに帰って行ったように感じていました。
白い波が打ち寄せる海岸線を汽車は黒煙を舞い上げながら北へ向かっていました。