長嶋引退

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けいじ  ●会社員(54) 


あの日のことは今でもはっきりと覚えている。
私は当時ある地方都市の支店に勤務していて野球に関して言えば周りは皆地元球団のファンだった。
60名ほどいた社員の中で先輩と私の二人だけが巨人ファンだった。

あの日は間違いなくやって来た。
先輩と私は二人車の中にいた。
外勤と称して二人で出掛けたのだった。
もちろん車のラジオで実況を聞く為だった。

ラジオの実況放送を聞きながら、
「まだ出来る。」そう二人で言いながら泣いた。

その日は家に帰ってもテレビの前に陣取り、画面に映し出される引退セレモニーを見ながらまた泣いた。

結婚仕立ての頃だった。
嫁さんが、「バカみたい。」と言った。
「俺の気持ちが分かるわけない。」と私は言った。
嫁さんは地元であり、巨人・長嶋には興味がなかった。
初めての夫婦喧嘩だった。